ごーふぁいっ!!〜superdotti?〜


 『特訓』。

 特別うさぎ跳びでタイヤを引いたり筋肉養成ギブスをつけたりということではない。
 今回の場合むしろ一人一人の足りない力を皆で補い合う、いわばコンビネーション作りのための試行錯誤になる。

 人数も足らない、ルールもいまいち分かってない、そんなバラバラなメンバーで一体どんな連携がとれるというのか。

 それでも全員『本気』であることが唯一の救いだった。

 そんなわけで、四人は目下ドッジキングから石版のかけらを奪取すべく『ドッジボール』の特訓とあいなったのである。


 「よおっし、じゃあ基本の『投げる』練習から始めよっか〜っ。」
 ボールを片手に、快晴といってよい青空みたいな笑顔でフェニックスが周りを見渡す。
 「なんでおまえに指図されなきゃんねーんだよ。」
 対してまるで曇天のようにすっきりしない表情でティキが返した。
 「まあまあ、いいじゃん。だってティキいまいちルール分かってないんだろ?」
 「そうよ。それにスポーツを通してお互いを理解しあうのは大事なことよ。」

 理解って・・・。

 ちらっとボールを片手でくるくると回してる天使に目をやってみるが、特別こいつを理解したいともされたいとも思わない。

 「ティ〜キ、わがまま言ってないで早くはじめようよ。」
 「誰がわがままだっ!誰がっ!!」
 文句を言いつつも、不承不承にフェニックスとは対面のコートに入る。
 「じゃあさ、簡単なラリーからでいいかい?」
 「生ぬるいこと言ってんじゃねーよ。やるなら最初から本気でやれよ。」
 「え〜、だってティキ、ドッジだよ?投げ方のフォームだっていろいろあるんだよ?」
 「フォームだあ?」
 「そうだよ。僕としては最初はコントロール重視なサイドスローから始めたほうがいいと思うんだ。」
 「はあ?」
 
 突然始まったドッジ談義にティキの顔が唖然となった。
 先ほど『早く』と言ったのは一体誰だ。

 「ったく。実力がない奴ほどウンチクをたれたがりやがるっ。」
 「なんか言ったあっ!?」
 「なんだ、おまえのボケた耳でも聞こえたのかよ。」
 「なんだってえっ!!」
 「やるっていうのかよっ!!」
 
 ぎりっとお互いにらみ合うが、殊勝にもお互いコートから出ようとはしない。
 ラインの引かれたコートはある意味特殊な空間になるものなのだ。

 「だったら勝負だっ!!」
 「ああ、受けて立ってやるよっ!!」
 ええ〜、さっき自分で『ラリーから』って言ってなかった?
 ティキの急かしようもどうかと思っていたが、フェニックスのぶっとびようも十分どうかがありありだ。
 主張は通そーぜー・・・、とはたで見ていたら要請がかかった。

 『勝負』である以上一応でもルールに則るということで外野が必要なのだ。
 断れない雰囲気もあるし、実際自分達だって体験した方がいいので『ほどほどに』ということで承諾する。
 アスカがティキ側、アムルがフェニックス側につき各々が配置についた。

 「いくぞっ!!」
 先ほどの言葉通り、フェニックスはサイドスローからティキに対して視点と体の向きを固定しつつ振りかぶった。
 ヴンッ!!
 ある程度慣れているのであろう、よどみのないそのフォームから繰り出された投球には余分な負荷がかかってない分威力は抜群だった。
 「っ!?」
 瞬間その速さをつかみかねてしまったティキがとっさに体をひねってよける。
 
 「ちっ!!」
 避けざま背面のアムルを見るとボールを取り損ねてしまったのだろう。
 必死で後ろに走っていく姿が見えた。

 「アムル〜。ごめ〜ん。」
 遠くに向けてフェニックスが声を出す。
 「ま〜さかティキがよけるなんて思わなかったからさあ〜。」
 今度はより近くに向かって。
 対象は言わずもがなだ。
 「な、なんだとっ!?」
 「だから言ったろ。投げ方・受け止め方の練習をないがしろにするからだよ。」
 「別に必要ねーって言ってねーだろっ!!ただおまえに合わせてたら日が暮れるって言ってんだよっ!!」
 「よく言うよっ!さっき僕のボールキャッチできずに避けたくせにっ!!」
 「あ、あれは、妙に取りづらい所にきたから・・・。」
 「あのね、『取りやすい』ところに投げてどーするの!?そんなの試合にならないじゃないか。」
 「おまえの性格がねじくれてるだけだろ!」
 「違うっ!!スポーツとしてこーとーテクニックっ!!」
 「高等技術があるんなら正々堂々投げろよ!」
 「ああ分かったよ!だったら今度は正面に投げるからな!!」
 と、フェニックスが正々堂々と宣誓布告する。

 ポーンと、どうにか戻ってきた外野のアムルから内野のフェニックスに向けられてボールが移動する。
 その点についてはティキは言及しない。
 むしろ今からくりだされるフェニックスのボールに対し身構えている。

 「怖かったら避けていいからね。」
 「そんな心配する前に、俺の反撃後の自分を心配しろよ。」
 互いが互いに慇懃無礼をはたらく。

 「受けてみろっ!!」
 フェニックスが先ほどと同じようにサイドからボールをくりだした。
 ヴヴンっ!!
 手元から離れた瞬間の速度を瞬時に計るとさっきと変わらないとティキが察する。
 一度体感した速さだ。
 そしてそれが正面に向かってくるとあれば一体なにに臆しようか。
 「ふんっ・・・、んんっ!?」
 不適な笑みを浮かべるのも一瞬。
 その肉迫するボールの軌跡に、ティキの瞳がかっと見開かれた。

 その視界に、ボールの縫い目が止まって見えた。

 そして暗転。

 『ガスっ!!』

 鈍い音がもれた。
 ティキの、顔面から。
 首を体をのけぞらしたまま、まるで時間が止まったかのようだ。
 
 『・・・あ。』
 アムルとアスカの声がはもるのだけが時間が進んでいることを証明する。

 顔面に当たったことで軌道が変わったボールがその足元にてんてんと落ちた。
 時間が完全に動き出す。
 
 ティキがばっと背を丸めその顔を両手で覆う。
 「〜〜〜っ!?」
 花火がちかちかする視界にとっさに声もでない。
 なんとか足は地面についているが、その膝ががくがく必死に踏ん張っている。

 「っく、しまったっ!顔面セーフだっ!!」

 フェニックスがさも悔しそうな声を出した。
 若干棒読みに。

 「せっかくコンシンのチカラをこめたのに、ティキをアウトにできなかったっ!!クヤシイなあっ!!」
 どんどん棒読みになっていく。

 そしてそれに反比例して表情はどんどん不適なものになっていく。

 「フェニックス・・・、てっめえ〜〜〜・・・。」

 ようやく声を出すまでに回復したティキがなんとかボールを拾いフェニックスを睨みつける。

 「てめーっ!わざとやりやがったなっ!?」
 怒号が森に響き渡る。
 

 「そんなことないよ〜。なんとか正面には行ったけど、僕ノーコンだからさあ〜。」
 にやにや、にやにや笑いながら自分を正当化する。

 きっとフェニックスを睨みつけながら、ティキが必死に冷静を保とうと口を開いた。
 「まっ、ノーコンじゃあしょうがねーよなー。こんなの蚊にくわれた程でもねーしよ。」
 
 顔面はじんじん・ひりひり・くわんくわんしています。

 「・・・、そりゃあよかった。ティキが怪我でもしちゃったら僕申し訳ないからね。」
 「むしろ俺の方がコントロールに自信がなくってよお。」
 この時ティキはうつむいており、フェニックスからは表情が読めなかった。
 けれど意識はティキの挑発発言に行っており全く気にならない。
 「へえ?じゃあティキも誤って僕の顔面にボールを投げちゃうのかい?」
 あんなの一回限りのコロンブスの卵だ。
 二度はない。

 「投げる?」

 うつむきながらも小さくつぶやく。

 ー違うね。

 その声はフェニックスには届かない。

 ティキの頭の怒りマークは静かに浮いたままで。

 注意深く対峙していると、ボールを持ったティキの手が開くのが見えた。
 「?」
 とっさに意味を把握しかねる。
 
 だからその様子は目に入っただけで理解に至らなかった。

 ボールが手から離れたのと、ティキの右足の膝から下が消えたのはどちらが先だったのだろう。

 右の太ももが左に向けて移動したのは見えた。

 その時消えたはずの右足の膝から下のパーツも見えた。

 なぜ伸びきっているのか。

 ただ。

 ただ、ボールは見えなかった。

 暗転にはならなかった。

 けれど目から火花は散った。


 ボールは、あごにクリーンヒットしたのだから。

 ごはあっ!ときれいに弧を描きながらフェニックスが地面に倒れた。
 「わり、足がすべった。」
 手足の先だけがぴくぴくしてるその体に、全く悪びれのないティキの声が投げつけられる。

 『蹴った』のだ。
 ボールを。
 ドッジドールで。

 そしてそのボールは下から上にホイップしながらフェニックスのあごに直撃した。

 一般的に足の力は手の三倍の強さだという。

 その破壊力や、その実証が今目の前にある。

 「・・・ひっさ〜ん。」
 「一応、これもセーフなのかしら・・・。」
 外野の先で、アスカとアムルが思い思いの感想を口にのせる。

 「〜〜〜っ!!」
 最小限の回復をし、ばっとフェニックスが起き上がった。
 「なんだよ。まだ寝てていいんだぜ?」
 「ティキっ!!蹴るの反則っ!!」
 あごを押さえつつ抗議の声をあげる。
 目には涙が浮かび、そのため鼻も緩くなってしまっている。


 「あれ〜、そうなのか?俺ルールちゃんとしらなくってよお。」
 「ルールって・・・。そんなの言わなくっても分かるだろっ!!」
 「分かんねーよっ!!公式ルールにでも書いてあんのかよっ!!」
 「そんなもの読んだことあるもんかっ!!」
 
 というより、『投げる』の時点で、使用できるのは『手』。

 ぜーぜーとにらみ合う二人だが、そこにぽんっとフェニックスの背中にボールが軽く当たった。

 「?」
 とっさに振り向くと、投げたのはアスカだろうか、外野からにっと笑われた。
 どうやらティキからシュートを食らった際、アスカ側の外野に落ちたようだ。

 「フェニックス、アウトな。」
 「え?あ・・・、ああっ!?」
 敵外野の投球に当たったのだ。
 アウト。
 「は、ははっ・・・。」
 その事態を飲み込めたティキがあざけってやろうと笑いをもらすが。

 ぽん。

 今度はティキの背中にボールが当たった。

 「あ?」

 振り向くとこっちはアムルだ。

 フェニックスに当たったボールがアムルの方に跳ねたのだ。

 「はい、ティキもアウト。」

 びっと人差し指を指す姿が決まっている。

 『〜〜〜っ!!』



 思わず真っ赤になった二人だが、この合法さにはさすがに文句は言えない。

 
 相変わらずの快晴の下、開き直った二人は特訓に励むのであったとさ。


                    END

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